オペアンプ選び 〜 マウスに搭載するヘッドアンプ自作(1)
遺伝子改変マウスがはびこる中、電気生理学的な手法を使ってLFP(Local Field Potential)や脳波(EEG; Electroencephalogram)を測定する需要が高まっているように思います。電気生理は実験系のセットアップには、工学分野の知識、特にノイズ除去に関する知識が必要です。ヘッドステージアンプはそんなノイズ除去方法の1つで、マウスが動いてリード線が激しく揺れ、それにより引き起こされるノイズの影響を低減することができます。その原理はとても簡単です。電極の直近にアンプを起き、シグナルを増幅することでS/N比を向上するのです。また、オペアンプの特性でインピーダンスを下げ、ノイズを乗りにくくする効果もあります。
そんな至れり尽くせりのヘッドステージですが、それなりに高いです(なんで材料費の数十倍の値段がするんだろう)。「今まで麻酔下での実験ばかりしていたけど、ちょっとフリームービングもやろうかな」なんて軽い気持ちで始められるものではありません。そこで自作することを考えました。
ありがたいことに自作方法を紹介してくれている論文がちらほらあります。
"Design and Construction of a Cost Effective Headstage for Simultaneous Neural Stimulation and Recording in the Water Maze."
盲目的に過去の論文を信じて作ってみるのも1つの手ですが、やっぱり色々と納得してから作ってみたいものです。そこで、数回に分けてどのオペアンプが良いのか、どう配線すると良いのかをまとめてみたいと思います。
オペアンプの選び方
オペアンプを選ぶにあたって、データシートのどの項目がノイズ削減などに重要で、なぜ重要なのかをまとめます。
入力オフセット電圧(Vos; Offset Voltage)
(この値×オペアンプの倍率)だけ出力電圧が上がります。例えば入力オフセット電圧が2.5mVで、1000倍になるように抵抗をつなげると、2.5Vが出力され続けることになります。
LFPの場合、電位はだいたい1mV未満なので、この値はそれより遥かに下だと喜ばしいです。ただ、ハイパスフィルターを入れて0Hzを無視するのであればあまり、除去されるので気にしなくてもいいかもしれません。
入力換算ノイズ(Equivalent Input Noise / Input Referred Noise)、入力換算ノイズ密度
(この値×オペアンプの倍率)だけ出力電圧にノイズが乗ります。低ノイズアンプであれば大抵nV/√Hz程度なのであまり気にしなくても大丈夫ですが、一応注意する必要があります。
スルーレート (Slew Rate)
この値より急峻な電位の変化は思ったような動作をしません。低ノイズアンプであれば、大体200Hzまで正しければ十分なLFP測定ではあまり気にすることは無いと思います。
入力インピーダンス(Input Impedance)
電極のインピーダンスよりずっと大きい入力インピーダンスが求められます。LFPを測定する電極のインピーダンスが1.5MΩ未満なので、1GΩの入力インピーダンスがあれば十分です。
TLC227xシリーズ
TLC2272 | 高精度アンプ | オペアンプ(OP アンプ) | 概要と機能一覧
Texas Instruments社のオペアンプです。先ほどの論文*1で紹介されていました。
Vosの値が2.5mVと少し大きめですが、前述のとおりハイパスフィルターを通すのであれば気にならないかと思います。ただ、馴染みの秋月電子で取り扱っていないようです。
OPA277シリーズ
OPA2277 | 高精度アンプ | オペアンプ(OP アンプ) | 概要と機能一覧
同じくTexas Instruments社のオペアンプです。ULTRA LOW OFFSET VOLTAGE
と謳っている通り、低い入力オフセット電圧になっています。こちらは秋月電子で取り扱っているようです。
高精度オペアンプ OPA277PA: 半導体 秋月電子通商 電子部品 ネット通販
求める仕様と合わなかったりしたらまた調べる予定です。
次回は、暇であればヘッドステージアンプの回路についてまとめてみたいと思います。
オペアンプについて学ぶに辺り次のサイトを参考にさせてもらいました。ありがとうございます。
オペアンプ・コンパレータの基礎
*1:Shirvalkar, Prasad R., and Mathew L. Shapiro. "Design and Construction of a Cost Effective Headstage for Simultaneous Neural Stimulation and Recording in the Water Maze." Journal of visualized experiments: JoVE 44 (2010).